ANNUAL EXHIBITION 2023 KYOTO CITY UNIVERSITY OF ARTS

2024.2.7wed -2.11sun 10:00-18:00

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専攻対談インタビュー

総合芸術学
谷村 無生
漆工
新谷 響名
油画
桑原 颯希

谷村 芸術学専攻で修士二回の谷村無生です。よろしくお願いします。

新谷 漆工専攻4年生の新谷響名です。お願いします。

桑原 油画専攻4回生の桑原颯希です。お願いします。

皆さん自分の作品制作過程とか、研究の資料とか持ってきて下さったと思うんですけど。それを見せ合って、普段どんなことをしているのか話していただけたら。

桑原さんの制作について

桑原 じゃあ、トリは気まずいんで……

谷村 ちょうど今、京都駅のPortaに桑原さんの作品のポスターが貼ってありますよね。

桑原 あ、そうです。飾らせて頂いてて。グラデーションメインの色鮮やかな絵を描いてます。あんまり大きいドローイングはしないタイプで、小さめのサイズに鉛筆で描いたものを、直接キャンバスに描いています。制作の根底としては部屋に飾りたい、見てて気分が明るくなるようなものを作りたいなとずっと思ってるので、明るめな色を基本的に選んでいます。あと正面構図なのは、鑑賞者と画面の中の、人物っぽいモチーフが対峙するような、鏡合わせになるようなイメージで描いています。

谷村 人物「っぽい」っていうのは何なんですか?このモチーフは人物ではないということですか。

桑原 鼻みたいな、人って断言できるようなパーツが欠けてるので、個性を持った1人1人の人間っていうイメージではなくて、あくまで人の形をした、人が共感しやすい形みたいなイメージで描いてるので、人っぽいものという表現をしています。けれど、鑑賞者の感じ方によっては人って思ってもらってもいいですし、人じゃない何かって勝手に想像してもらっても、構わないですね。

谷村 今まで展示をされた際にいただいた感想で、人じゃない見方をした人はいるんですか。

桑原 たくさん交流するタイプじゃないのであんまり直接感想は聞かないんですけど、人型に着目した感想をいただいたことは多くはないので、何かのキャラクターって思ってそうだなとは思ってて。

谷村 確かにちょっとアバターっぽいというか……。

桑原 ただアニメキャラクターみたいになってしまうと、ちょっと違うなって思うので、あくまで色とか絵の部分メインの展示に参加してます。サブカル系の展示にはなるべく参加しないようにしてる、みたいな。

谷村 タイトルもちょっと抽象的というか。

桑原 そうですね。なるべく短い単語で、見る際のきっかけ作り、感情の引っかかりになりそうな言葉をつけてはいますね。「共鳴」「共感」が自分のコンセプトに合ってるんで、それっぽい名前を付けてみるとか。ただこの作品をこう見てほしいみたいなイメージでつけてしまいすぎると、自分の思ってる作品にはならないなと思ってるんで、なるべく短い文字、引っかかりになればいいなみたいな言葉をつけてますね。名前自体、あまり付けたくはないです。

谷村 作品点数が多いですよね。これだけの点数でシリーズ化されているが故の強さはありますよね。

新谷 全部並べてみたらすごそう。

谷村 壁一面とかやってみたい。全員こっちを向いている。

桑原 圧がすごそう(笑)。

新谷 院でもテイストは変わらず?

桑原 そうですね。ただ影の向きを変えたり、肌も今までと違う色を使ってたり、いろいろ新しいことはしています。キャンバスも、麻だったり綿だったり……これは特に薄い天竺綿のキャンバスなんですよ。紙みたいな薄さで、100号くらいの大きさに貼ったら破れるような薄さなんで、そういうのも面白いなって思ったし、扱いは難しいんですけど、グラデーションが本当に綺麗にいったので、もっといろんな素材を試してみたいなと。

新谷 立体にはしないんですか?

桑原 ずっとしたいなと思ってて。ソフビ(ソフトビニール)のやつ欲しいって自分で思いながら、木で掘るかって考えて……。春休みとかでやれたらいいなと思ってます。

新谷さんの制作について

新谷 じゃあ、私もトリはちょっと……。

(笑)

新谷 私は漆という素材を触りながら、皮膜性・身体性・空間性を意識して制作をしています。工芸作品ってよく展示台に置かれたり、特に漆は紫外線が駄目なので、暗い室内に置かれるんですけど、私は漆の素材としての可能性を広げたくって、作品をいろんな空間に置いてみたいなと思っています。あと、過去にフィギュアスケートをしていて、身体表現が自分の好きな自己表現の一つでもあるのでそれと組み合わせて作っています。

新谷 これは去年『カイコ、』という立体作品を作って、それと一緒に身体表現をしたときですね。虫の「蚕」と昔を懐かしむっていう意味の「懐古」をかけていて、フィギュアスケートをしてた時のキラキラした記憶みたいなのが、逆に自意識としてどんどん膨張していって、残像のように大きくなっていくような様子を、同じ形を連続させることで表現できないかなと思ってたくさん数を作りました。手回しのろくろでアナログ的に発泡スチロールを削りながら。私は作品の支持体は主に発泡スチロールで作っていて、発泡に布を貼って、そこに下地の漆を重ねて、中塗り、上塗り……その中にも、研ぎと塗りを何層も重ねて、最後の磨きまでいくんですけど、その中に支持体を残すっていうことが、私的に重要で。あえて中を抜かずに、残ったまま存在としてあるっていう、「中」と、置いたことによる「外」、鑑賞者との距離みたいなものを探りたいなと思っていて。その間の位置に漆が属してるんじゃないかなと思っています。

桑原 この大きさのものをこの数作るってやばいですよね。

谷村 時間はどれぐらいかかるんですか?

新谷 漆って基本的にですけど、1年とかかかるんですよ。でも京芸って展示する機会が結構多くて。前期展とか作品展、毎年出さなあかんから、漆にとって結構きつくて、どうやって無駄を省いてやるかっていう。

桑原 漆、かっこいいなと思って見てたんですけど、改めて説明してもらえると、すごい面白い。

新谷 漆なんですって言ったらかっこいいなって言われるので、めっちゃお得な感じはあります(笑)。素材が強すぎるので、工芸っていうのもあるし、素材の良さをどう引き出すかっていうか、継承もしていきたいなと思ってるんで。

谷村 工芸は、その辺りが難しいですよね。自分の表現と素材研究というか、技術の部分と。絶妙なバランス感覚が必要ですよね。

桑原 いやあ、漆って……すごいなあ~。いや、根気いりすぎでしょうと。

谷村 まさに蓄積ですよね。

桑原 磨かれてるだけでその人の努力もわかるし、丁寧に気持ち込めて作業してるんだなっていうのもすごい伝わってくるから、めっちゃ好きなんですよね〜。

新谷 めっちゃ怖いんですよ。時間かかるから、途中で嫌になったら戻れない。だから最後まで絶対この形を好きなまま終われそうっていうアイディアが出ない限り私は作り始められなくて。悩んでます。どの専攻も一緒かもしれないけど。

桑原 漆は特にそうでしょう、ここまでの漆の層を無駄にするぐらいだったらもう完成させようという気持ちはすごいわかるな。

新谷 漆って木の樹液だから、人間で言うと血液みたいなエネルギーがあるんですよね。だから命触ってる感じがあって余計に怖いんですよ。楽しいのと怖いのと。緊張感ありますね、触ってて。楽しいですけどね。

谷村さんの研究について

谷村 じゃあ僕ですね。僕は現代美術が専門で、作家研究をしているんですね。その作家がこの鴻池朋子さんという方です。僕は、彼女にインタビューをさせていただいた際に、ご自身の活動について動物的なことをしているんだよねとお話されて、その「動物的」というのがおそらく作家の制作の動機の根底部分なんだろうなと考えました。実際いろいろなインタビュー記事や展覧会に寄せられたテキストにも、やっぱり「動物」という言葉はよく登場します。でも彼女が言う「動物的」って一体どういうものなのかがわかりにくい。動物と言ってもいろいろな種類がいるし、イメージとしてなのか性質としての動物なのか、曖昧なので、インタビューや作品、個展の中から彼女の思う「動物性」を掘り起こしていくような研究です。

谷村 彼女は最近人気が出てきた作家なんですけど、評価のされ方がある意味表層的で。単純に描いてる動物を見て、人間だけじゃなくて動物のことも考えなきゃいけないよねみたいな最近のエコロジーの文脈で語られるんですね。あとは作家自身が女性で、『赤ずきん』の物語ようなオオカミや女の子が出てくる作品も多くjあるので、フェミニズム的な要素とかと判断されて、男性中心主義に対する反発が孕まれてるんじゃないかとか言われるんですけど。でも本人に聞いてると、単純に「いや毛皮ってふかふかしてるから面白いんだよね」というような、マテリアルや性質みたいなものにただ興味があって、だから作品に文脈を与えてメッセージ性を与えて発表している訳ではないようです。僕は描かれているものに注目するよりも、展覧会、ライティングや道順に凝っていて、同じ作品が出ているはずなのに展覧会ごとにずいぶん印象が変わる作家なんですね。そこに彼女の思う動物性という言葉が入り込んでるんじゃないかなと思っています。

新校舎の話題へ

新谷 この方の研究をしようと思ったきっかけってあるんですか。

谷村 僕が現代美術に興味が出たのが2019年ぐらいで、それからいろいろ展覧会を見に行くようになったんですけど、結構ハイコンテクストじゃないですか。現代美術と言われるものって、概念的だったり、政治的だったりするテーマがよく見られますよね。それだけ作家も評価する人間も社会動向に関心を寄せているとも言えますが。あとは美術史の中で、自分の作品がいかに新しいかをプレゼンするような作品も多いですよね。だから楽しく鑑賞はできても、歴史を知らなかったら上手く評価するのは難しい。それはそれで知能ゲームみたいなで面白いと思うんですけど、僕が2020年に東京のアーティゾン美術館で見た鴻池さんの展示は、いわゆる知能戦じゃないというか、そういう観点で見ても何も見えてこない展覧会だったんですね。「ちゅうがえり」という不思議な名前の展示で、まさに感覚がひっくり返るような感じでした。順路を設けず、思い思いの順番で鑑賞できるように、展示空間が作り込まれていて、迫力がすごくあったんですよね。そこでは作品自体に何かメッセージが込められているというよりかは、展示に来た人がどう体験するかに重きが置かれていて、彼女が思う展示のテーマに合う作品を引っ張ってきて、置いて、演出していくような感じでした。学部生のとき、卒論に彼女も取り上げたいと思って頑張ったんですけど、学部の時の僕のテーマとは近いけれどちょっと違って。言語化できぬままだったので、修士では何とか形にしたいなって思って、鴻池さんに絞り込んだんですね。

谷村 あともう一つ。研究の手法が、作家にインタビューをして、作家の思想と展覧会での振る舞いを照らし合わせていく作業なんですけど。現代美術の作家の研究ってこれからどうなっていくんやろって考えたときに、昔の人を研究する場合は手紙があるじゃないですか。作品も残っているし、手紙も残っているから、作家の人間像みたいなのを振り返ることができるけれども、今ってメールとかLINEとかやから、サービスが終わったら無くなるじゃないですか。そうなると、作家像が垣間見えるものってなくなるんじゃないかなと思っていて。展覧会批評は大してもう今は役に立ってない状況、作家の批評があんまり機能してない中で、いかに作家像を残していくかを考えると、インタビューなどから作家の思想や人物像を抽出する必要があるかなと思って。なのでちょっと今後の現代美術の作家研究の上で役に立ったらいいなと思ってはいますね。

桑原 面白いな~。でもやっぱ評価される際って、確かに政治絡みが本当に多いっていうか、私も前展覧会行ったときに、すごく難しいことがいっぱい書いてあるけどわかんないなと思って見てたので、結局「こういうタイプの作品が好き」というか、風潮として何らかのコンセプトにとらわれなくても別にいいなって思ってます。

谷村 知能戦でやってるのもいいし面白いんですけど、彼女は馬力だけで全部突っ切ってきたみたいな。

新谷 うん、パワーというか、エネルギーを感じます。

谷村 作品もこういう感じやから、自分の感覚が作品に追いつかないぐらいの勢いがあふれているんじゃないかと思いきや、案外そうでもないんですよ。アーティストって言ってるから作品を作っているだけで、なんならやりたくないんだよねみたいなことをおっしゃっていたんですよ。

桑原 絵を仕事にしてるとそういう気持ちは出てくるかもしれないですね。

新谷 私は生きながら考えたくないことを考えてしまうタイプで、作品を生む前にいろいろ考えてしまうので、めっちゃ面白いなと思って。

桑原 京芸生見てると、自分の考えを作品にするタイプと、全く自分とは関係ないものを作品にするタイプとで二つぐらいにわかれるなって思います。自己表現っていうか、自分の内面を昇華するために再解釈するタイプと、好きなことやってますみたいなタイプ。

谷村 芸術学の人間って、思考を言葉にするけど、最初おっしゃってたタイプの作家って、多分思考の言語が言葉じゃないんだろうなって。インタビューするとやっぱそういう作家もいるよねっていうのはすごい感じました。

新谷 美術の人ともっと話したいなって思いますよね。漆ってそもそもあんまり外に出ないタイプが多いので。

桑原 棟も離れてるしね。

新校舎の話題へ

新谷 あんまり自分のことをみんなで話し合うとかがないので、今のこの場がイレギュラーな感じで面白いです。

桑原 前の方が、交流できた気もするような。

新谷 私的には新キャンパスに来てからの方が外部の講師の方が来てくれることもあって、交流しやすいかも。あと明るくて綺麗だから来やすい。あっちはあっちで勝手に鍋炊いたり映画見たりできたけど、こっちもこっちで整ってて嬉しいというか。

谷村 僕も、大学によく来るようになりました。沓掛は遠かったし座学もずっとオンラインが続いていたので、行かなくても受講できた。こっちに来たら、特にC棟は構想設計が入ってて、油画の院と各専攻の博士も入っているじゃないですか。エレベーターに乗ったときに知り合いに会えるのは中央棟(旧校舎)の時はなかったよね。

桑原 芸術学だけやたら離れてた記憶はあります。構想設計もウロウロ行かない場所にあって。ただ前は油画の院の部屋がほとんど同じ廊下みたいな感じだったんですけど、院の先輩と全く顔を合わせない別の棟になっちゃったんで、それがちょっと悲しいなとも思いつつ。

新谷 専攻によっても全然違いますよね。

桑原 日本画とかだと地面課題があったけど、今全部コンクリだし。

谷村 沓掛時代は、みんながうずくまって描いてるのは面白かったけど。あの野生みはやっぱり削がれはしましたよね。

桑原 カオス感はなくなったんですけど、人は入りやすくなりましたよね。

新谷 より開かれた大学として機能できてきそうな気はしますね。沓掛やと森に囲まれてて……。

桑原 ちょっとね、行きづらいよね。入りづらいお店みたいな。

谷村 学部や専攻が違ったら、部屋に入れなくなったじゃないですか。あれはちょっと寂しいですけどね。音楽学部の建物にも入れなくなったし、防音がすごく良くなったから、音も滅多に聞こえなくなりましたよね。

新谷 聞こえたら近所迷惑なのはそれはそうなんですけど、沓掛の猫がいるところに絵描きに行ったら音楽が聞こえてくるのが超好きだったから……。

桑原 防音で言うと、設備はちゃんとしてますよね。エレベーターもあるし。

谷村 トイレも綺麗だし、あったかいし。

桑原 部屋も毎日冷房暖房つけてるし。

新谷 水道が特殊排水になって、今までとぎ汁っていう、漆を研いで時間経ったら固まる水みたいなものをわざわざバケツにためて外に放り投げてたんですけど、それをしなくて良くなった。その辺が良くなったのがめっちゃ嬉しいです。

谷村 芸術学もよく人が来るようになったし。前はほんまに誰もいなかった。やっぱね、こっちに来てからは、みんな大学に来て何かしらしている。畳の部屋とか、朝いったらみんな寝てる(笑)。IHコンロもあるし、料理できちゃうから、いろいろできたらいいですね。

桑原 最近留学生とたこ焼きパーティーしました。

谷村 あ、見ました。保存修復の前あたりとかじゃないですか?

桑原 じゃなくてL9ですね。別のタコパ(笑)。

新谷 そんな、色んなところで同時に……(笑)。

谷村 環境デザインの子とかも、引っ越して数日で餃子パーティーしていましたね。適応が早い。

桑原 なんやかんやよかったですよね。


  • インタビュアー若野 桜子
  • カメラマン畑 えりか
  • 対談場所C棟 カフェ・コモンズ